印刷工場をLED化した後、「以前より色が見えにくい」「試し刷りの色が違って見える」と感じていませんか?
その原因の一つとして考えられるのが、照明の演色性や分光特性の違いです。
印刷工場では、単に明るいLEDを選べばよいわけではありません。とくに色校正や検査を行う場所では、印刷物の微妙な色差を見分けられる照明環境が求められます。
本記事では、印刷品質に関わる「演色性(Ra)」の基礎から、一般的なLEDで色の見え方が変わる理由、高演色LEDの選び方、工場全体の照明設計まで分かりやすく解説します。
印刷工場のLED化で「色が見えにくい」と感じる理由
印刷工場において、照明のLED化を検討する企業が増えています。
省エネによる電気代の削減や既存照明の更新など、LEDへ切り替えるメリットは少なくありません。
しかし、照明をLEDに交換したことで、
「蛍光灯のときより色の確認がしづらい」
「試し刷りの色味が以前と違って見える」
「十分明るいのに細かな色の違いを判断しにくい」
といった問題が生じることがあります。
こうした現象が起こる理由は、照明には「明るさ」だけでなく、物の色をどのように見せるかという特性があるためです。
ルーメン(lm)やルクス(lx)だけを比較してLEDを選んでも、印刷現場に適した照明になるとは限りません。
そこで重要になる指標の一つが「演色性」です。
印刷品質を左右する重要な指標「演色性(Ra)」とは
演色性とは、照明によって照らされた物の色が、基準となる光の下で見た場合と比較して、どのように見えるかを表す性質です。
その代表的な指標が「平均演色評価数(Ra)」です。
Raは100を上限とし、一般的には数値が高いほど基準となる光に近い色の見え方を再現しやすいことを示します。
オフィスや倉庫などではRa80程度のLEDが使用されることもありますが、印刷物の色を細かく確認する現場では、より高い演色性が求められる場合があります。
印刷物の色を確認する作業ではRa90以上を一つの目安とし、色校正や検査など、より厳密な色評価が求められるエリアではRa95以上を含む高演色LEDを検討するとよいでしょう。ただし、必要な性能は作業内容や求められる評価精度によって異なります。
ただし、Raが高ければ、それだけで印刷物の色が必ず正確に見えるわけではありません。
色温度や特殊演色評価数、光の分光特性、照度、照明の配置なども色の見え方に影響します。
そのため、印刷工場のLED選定では、単なる明るさの指標であるルーメン(lm)やルクス(lx)だけではなく、演色性を含めた「光の質」を確認することが大切です。
なぜLEDによって色の見え方が異なるのか
一般的な白色LEDの多くは、青色LEDと蛍光体を組み合わせることで白色の光を作り出しています。
この光に含まれる波長のバランス、つまり「分光分布」は製品によって異なります。
そのため、同じ「白色LED」であっても、製品によって特定の色が鮮やかに見えたり、反対にくすんで見えたりすることがあります。
印刷現場では、こうしたわずかな違いが重要です。
たとえば、マゼンタやシアンなどの微妙な階調を確認する際、照明によって色の見え方が変化すると、印刷物そのものではなく「照明による色の違い」を見て判断してしまう可能性があります。
また、確認しておきたい指標の一つが「特殊演色評価数」です。
平均演色評価数(Ra)が複数の試験色を平均して評価するのに対し、特殊演色評価数では個別の色に対する再現性を確認できます。
なかでもR9は赤色の見え方に関係する指標です。
R9が低い照明では、赤や暖色系の色が本来とは異なって見える可能性があります。
そのため、色の確認が重要な印刷現場では、Raだけで判断せず、R9などの特殊演色評価数や分光特性についても確認するとよいでしょう。
印刷品質を守るためには、「明るいLED」ではなく、作業者が色を適切に確認しやすい「光の質」を考えることが重要です。
蛍光灯からLEDへの移行で見落とされがちな「色の見え方」の変化
色評価用の蛍光灯などを長年使用してきた印刷工場では、LEDへの切り替えによって色の見え方が変化する可能性があります。
とくに注意したいのが、既存照明と同程度の明るさや器具形状だけを基準にLEDを選んでしまうケースです。
印刷物の色を評価する環境では、照度だけでなく、演色性や色温度、分光特性など複数の要素が関係します。
そのため、既存の蛍光灯と同じ程度の明るさを確保できたとしても、LEDの特性が異なれば、印刷物の色の見え方まで同じになるとは限りません。
また、印刷物の厳密な色評価では、印刷・写真分野の観察条件を定めた規格などを踏まえて評価環境を整えることも重要です。
単純に「Raが高いLEDなら問題ない」と考えるのではなく、実際にどのような作業で使用する照明なのかを整理したうえで選定する必要があります。
さらに、同程度のRaを持つ製品であっても、特殊演色評価数や分光分布、照射角度、設置高さなどが異なれば、実際の見え方にも違いが生じます。
印刷機周辺の作業照明と、色校正・検査を行う照明、資材を保管する倉庫の照明では、求められる性能が異なります。
工場全体を一種類のLEDで統一するのではなく、作業内容に応じて照明を使い分けることが、LED化で失敗しないためのポイントです。
Raが高ければ印刷物の色は正確に見える?
高演色LEDを選ぶ際に注意したいのが、「Raが高ければ色の問題はすべて解決する」と考えてしまうことです。
Raは照明を比較するうえで重要な指標ですが、色の見え方を決める要素の一つにすぎません。
印刷物の色の見え方には、たとえば以下のような要素が関係します。
- 平均演色評価数(Ra)
- R9などの特殊演色評価数
- 色温度
- 光の分光分布
- 作業面の照度
- 照明器具の設置位置や照射角度
- 外光や周辺照明の影響
- 壁や床など周辺環境からの反射光
つまり、カタログ上で「Ra95」と表示されている製品を選んだだけでは、実際の印刷工場で期待した色の見え方を得られるとは限りません。
とくに色校正や最終検査など、わずかな色差を判断する作業では、LED単体のスペックではなく、照明環境全体として考えることが重要です。
印刷現場の品質を守る「高演色LED」の選び方と照明設計
印刷工場のLED化を成功させるには、高演色LEDを選ぶだけでなく、実際の作業内容に合わせて照明を配置する必要があります。
ポイントとなるのが、「どこで色を確認するのか」を明確にすることです。
作業エリアごとに求められる演色性と光の役割
印刷工場のすべての場所で、最高スペックの高演色LEDが必要になるわけではありません。
色を厳密に確認する場所と、機械操作や搬入作業を行う場所では、照明に求められる役割が異なるためです。
目安としては、次のように作業エリアを分けて考えます。
| 作業エリア | 演色性の選定目安 | 求められる光の役割 |
|---|---|---|
| 色校正・検査スペース | Ra95以上を中心に検討 | 印刷物の微妙な色差や階調を確認する |
| 印刷機周辺 | Ra85〜90程度を目安に検討 | 印刷状態や機械周辺を見やすくする |
| 資材倉庫・搬入エリア | 用途に応じて選定 | 十分な明るさと安全な作業環境を確保する |
※上記は照明選定の考え方を示した目安です。実際に必要な演色性や照度は、作業内容や設備、設置環境などによって異なります。
このように、色校正や検査を行う場所には高演色LEDを使用し、それ以外の場所では用途に応じたLEDを選ぶことで、品質とコストのバランスを取りやすくなります。
「演色性」と「照度」は別々に考える
LED照明を選ぶ際には、演色性と照度を混同しないことも重要です。
演色性は「色がどのように見えるか」に関係する指標であるのに対し、照度は作業面が「どの程度明るく照らされているか」を示します。
高演色LEDを設置しても、作業面が暗すぎれば細かな印刷状態を確認しにくくなります。
反対に、十分な照度が確保されていても、照明の演色性や分光特性が作業に適していなければ、色を正確に判断しづらくなる可能性があります。
印刷工場では、必要な明るさと色の見え方を両方満たす照明環境を設計することが重要です。
高天井用LEDと手元用の高演色LEDを使い分ける照明設計
天井の高い印刷工場では、工場全体を高演色LEDだけで照らす方法が必ずしも最適とは限りません。
そこで有効なのが、「基礎照明」と「局所照明」を分けて考える方法です。
まず、高天井用LEDによって工場全体の基礎となる明るさを確保します。
ここでは、作業動線や機械操作などに必要な視認性と安全性を確保することが主な目的です。
そのうえで、色校正台や検査台など、印刷物の色を細かく確認する場所に高演色LEDを配置します。
このように、
工場全体=必要な明るさを確保する基礎照明
色を確認する場所=色再現性を重視した高演色の局所照明
と役割を分けることで、工場全体を最高スペックのLEDで統一する場合と比べて、設備コストを抑えながら必要な場所の照明品質を高めやすくなります。
弊社ニイヌマでは、現場の状況に応じた事前の照度計算を行い、作業内容や設置環境を踏まえた照明配置をご提案しています。
単純に既存照明をLEDへ置き換えるのではなく、基礎照明と局所照明の役割を整理して設計することが、コストと品質を両立させるポイントです。
印刷工場のLED導入前に比較したい選択肢と失敗しない進め方
ここまで紹介したポイントを踏まえると、印刷工場のLED化には大きく分けて「自社で製品を選定する方法」と「専門家に照明設計を依頼する方法」があります。
対象となる範囲や求める照明品質に合わせて検討しましょう。
カタログスペックをもとに自社で製品を選ぶ場合
対象となる場所が限定されており、必要なRaや色温度などの条件が明確であれば、カタログスペックを比較して自社でLEDを選定する方法もあります。
比較する際には、少なくとも次の項目を確認しましょう。
- 平均演色評価数(Ra)
- R9などの特殊演色評価数
- 色温度
- 光束(lm)
- 配光・照射角度
- 消費電力
- 設置可能な高さや使用環境
自社で選定できれば、比較的スピーディーに導入を進められるメリットがあります。
一方で、カタログに記載された数値だけでは、実際の作業面でどの程度の照度になるのか、既存環境で色がどのように見えるのかまでは判断しにくい場合があります。
とくに色校正や検査に使用するLEDは、スペックだけで決定せず、実際の使用環境を考慮することが重要です。
印刷工場のLED化は「明るさ」だけでなく「色の見え方」で選ぶ
印刷工場のLED化では、省エネ性能や明るさだけを基準に製品を選ぶと、導入後に「印刷物の色が違って見える」という問題が起こる可能性があります。
とくに色校正や検査など、印刷物の微妙な色差を判断する作業では、平均演色評価数(Ra)をはじめ、R9などの特殊演色評価数、色温度、分光特性、照度などを総合的に確認することが重要です。
また、工場全体を同じLEDで統一する必要はありません。
高天井用LEDで工場全体の明るさを確保しながら、色を確認する場所には高演色LEDを配置するなど、作業エリアごとに照明の役割を分けることで、品質と導入コストの両立を図れます。
照度計算を含めた照明設計を専門家に依頼する場合
「現在の蛍光灯からLEDへ交換しても色の見え方を維持できるか分からない」
「自社工場にはどの程度の演色性や照度が必要なのか判断できない」
「高天井用LEDと高演色LEDをどのように配置すればよいか分からない」
このような場合は、製品スペックだけで判断せず、実際の作業環境を踏まえた照度計算や照明設計を行うことが重要です。
印刷品質を維持しながらLED化を進めるには、製品単体のスペックだけでなく、現場に必要な「明るさ」と「色の見え方」の両面から照明環境を検討することが大切です。まずは、色校正・検査、印刷機周辺、倉庫など、エリアごとに求められる照明条件を整理することから始めましょう。
いずれの方法を選ぶ場合も、まずは自社のどのエリアにどれだけの演色性が必要なのかを整理することが、最初の一歩となります。
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